鍼師高橋の小辞典

脉状診 鍼師高橋のホームページには、東洋医学や鍼灸・マッサージにおける専門用語がたくさん登場します。その中でも特に多いのが、日常生活では目にすることがない漢字です。「どのように読めば良いのか?」、「どんな意味があるのか?」を知ることは、鍼師高橋が実践している施術についてより深く知っていただける一助になると考えています。

そのため、ここではホームページ上で使用している主な漢字と、いくつかの専門用語について簡単に解説しています。

 

漢字は、時代により多くの形がありました。しかし、一つの漢字に多くの形があると使い勝手が悪くとても不便なため、一つの形に統一しようという動きが生まれます。そこで、多くの人が標準的に使っている漢字の形を「正字(せいじ)」、それ以外の形を「異体字(いたいじ)」と、2種類に区別して使用するようになっていきます。

そうした時代背景のもと、東洋医学はすでに2,000年以上の歴史があり、研究対象である古い文献には「異体字」がたくさん使われていました。「異体字」の中には、使用する文脈の関係で「正字」に置き換えることが難しいものも存在します。

 

鍼師高橋のホームページの中でも使われている「正字」「異体字」の一例として、次のようなものがあります。

 

●針→「正字:針」、「異体字:鍼」

針は縫い針や注射針(needle)をイメージすることが多いため、鍼(acupuncture)を使っています。

 

●脈→「正字:脈」、「異体字:脉」

原則として、普通名詞の場合は「脈」を使いますが、固有名詞の場合は「脉」を用います。これは一番最初の文献に「脉」を使っていたことに起因します。

 

●脉状診

 【読み方】みゃくじょうしん

 【意味】東洋医学では、からだの状態や病気の原因(病因)を見つけるための診察法として、「望(目で見る)」「聞(耳で聞く)」「問(質問をする)」「切(触れる)」の4つの方法があります。その中でも病因がわかりやすいということから、切診に分類される「脈診」が発達してきました。この脈診には大きく二つの流れがあります。日本では1940年代から独自に発達した『六部定位脉診』もありますが、中国では脈の状態から病因を見つける『脉状診』が主流となっています。

 

●鍼師高橋

 【読み方】はりしたかはし

 【意味】病いを治すためには病因を取り除く必要があり、病因は脈状にあらわれます。『井上式人迎気口診』は、この脈状に応じて最適なツボに鍼をします。これにより病因は取り除かれ、脈状が変化(脈がととのう)します。はり・きゅう・マッサージの中で、病因を取り除き、脈をととのえるのに最も適したものが鍼であることから、患者様の不調に寄り添いお一人おひとりの病因に則した最善の治療をおこないたいとの想いから、鍼にこだわり『鍼師高橋』と命名しました。

 

●井上雅文先生

 【読み方】いのうえまさふみせんせい

 【意味】1937年~2007年。古典鍼灸研究会4代目会長。父は「経絡治療」を提唱した井上恵理。経絡治療の脈診法である『六部定位脉診』を受け継ぎつつも、その診断法・治療法に限界を感じ、『脉経(みゃくけい)』に出てくる『人迎気口診』を復活・再構築しました。数々の講演活動をおこない、勉強会などを開催。著書に『脉状診の研究』(1980年)があります。 (私が井上雅文先生と初めて出会ったのは1991年『脉学会』の例会に参加した時です。井上先生は顧問として参加なさっていました。)

 

●古典鍼灸研究会(付脉学会)

 【読み方】こてんしんきゅうけんきゅうかい(ふみゃくがっかい)

 【意味】現存する鍼灸の研究会としては最も古い会とされています。

 1940年:『古典研究会』は、「古典」から経穴・病証・臨床などを学ぶことを目的として本間祥白(ほんま しょうはく)を中心に設立される。初代会長 柳谷素霊(やなぎや それい)、副会長 井上恵理(いのうえ けいり)

 1956年:2代目会長 井上恵理

 1964年:名称を『古典鍼灸研究会』に改める。

 1967年:3代目会長 小野文恵(おの ぶんけい)

 1973年:4代目会長 井上雅文

 1994年:井上雅文が臨床研究を目的として設立していた『脉学会』との合併により、『古典鍼灸研究会(付脉学会)』を正式名称とする。

 

●寒邪

 【読み方】かんじゃ

 【意味】東洋医学から見た病いの原因(病因)には、からだの外側から邪気が入ってくる外因と、からだの内側から起こる内因があります。外因には「風・寒・暑・湿・燥・火」の六つの邪があります。一例として、「寒邪」は寒すぎる冬や夏に冷房にあたり過ぎる・冷たい飲食物の摂り過ぎなどによって、皮膚や口などからからだに入り、からだを冷やします。これにより体内の陽気が衰え、気血が滞り、痛みを生じるという症状を引き起こします。

 

●六部定位脉診

 【読み方】ろくぶじょういみゃくしん

 【意味】左右の手首にある橈骨動脈(とうこつどうみゃく)を「寸・関・尺」の六部に分け、この部の脈動を比較することによって、どの臓腑が相対的に弱っているのかを見つける脈診方法。

 

●経絡

 【読み方】けいらく

 【意味】臓腑・組織・筋肉・皮膚などの全身に張り巡らされている気の通り道。からだを縦方向にのびる太い枝を「経脈(けいみゃく)」、経脈から分かれ横方向にのびる枝を「絡脈(らくみゃく)」といいます。

 

●井上式人迎気口診

 【読み方】いのうえしきじんげいきこうしん

 【意味】12世紀から中国で使われ、その後途絶えていた、『人迎気口診』を井上雅文先生が復活・再構築した実践的な脈診法。左右の手首の「人迎」と「気口」の脈状から病因を分類し、それに応じて最適なツボを体系的にまとめ、臨床の場で使える実践的な脈診法となりました。

 

●本治法

 【読み方】ほんちほう

 【意味】病因を取り除けば症状がなくなるという考え方に基づき、脈状から判別する病因を取り除くため、重要なツボに鍼をして脈をととのえる方法。「標治法」と対になる概念。

 

●てい鍼

 【読み方】(「てい」は「金+是」)ていしん

 【意味】『黄帝内経霊枢』に挙げられる“九鍼”の一つで経脈(気の流れる道筋)を押して、気血をめぐらせる手法に用いられる鍼です。

 

●井上式治熱灸

 【読み方】いのうえしきちねつきゅう

 【意味】『古典鍼灸研究会』第2代会長の井上恵理が発明したお灸の手法。指頭大のモグサを用い、患者様が熱いと感じたら、すばやく取り除くお灸です。

 

●トリガーポイント

 【読み方】とりがーぽいんと

 【意味】圧迫などによって関連痛を引き起こす体表上の部位のこと。実際に痛みを感じている部分とはかけ離れた部位にあることも多く、見つけるためには研究と経験が必要です。

 

●拮抗筋

 【読み方】きっこうきん

 【意味】動作をするときに互いに反対の作用をするペアの筋肉同士を「主動筋」と「拮抗筋」といいます。いわば車のアクセルとブレーキのようなものです。車が前に進まないようなケースでは、アクセルが故障している場合とブレーキが強くかかっている場合が考えられます。人体においても、ある動作がしにくい場合は、主動筋だけでなく拮抗筋に原因がある可能性を考え合わせる必要があります。

 

●標治法

 【読み方】ひょうちほう

 【意味】症状を取り除くための方法。「本治法」と対になる概念。